君は田中相という漫画家を知っているか -漫画『LIMBO THE KING』

 

 

 

田中相という漫画家をご存知でしょうか。

ダンジョン飯』が大ヒット作となり、その作者九井諒子は一躍人気漫画家となりました。私は2011年のデビュー作『竜の学校は山の上』からファンの古参気取りです。その『龍の学校』を購入した時『地上はポケットの中の庭』という漫画も一緒に買っていて、これも勝るとも劣らぬ面白さでありました。その作者が田中相。以来私の中ではこの二人は勝手に二人一組扱いなのですが、どうも知名度に差がありかなしい。
『LIMBO THE KING』はそんな個人的「もっと評価されるべき漫画家第一位」田中相の好評連載中最新作。

舞台は2086年のアメリカ。二人の男が「眠り病」と呼ばれる奇病に立ち向かうSFサスペンスです。突然昏睡しそのまま死に至る眠り病は記憶の癌とも言われ、数千万の犠牲を出しながらも8年前にようやく治療法が確立されて根絶を達成。その治療法というのが、ダイバーとコンパニオンという二人一組の能力者が患者の記憶世界(リンボー)に侵入し、その中で病原を排除するというもの。主人公はこのコンパニオンとダイバーコンビ。
一人は事故で片足を失った海軍兵士アダム・ガーフィールド。なんというか非常に感情豊かでお調子者。事故で死にかけてる間に検査かなんかで最強ダイバー通称キングとの相性が歴代最高ということがわかり、目が覚めるやいなやコンビ組めダイブやれ、と命じられます。眠り病は根絶したのでは?新型だ、アダム。
相棒のダイバーは、8年前眠り病を滅ぼした英雄キングことルネ・ウィンター。こっちは逆に絵に描いたような無愛想、無関心、白髪、痩身という役満クールガイ。しかもめっちゃ有能。この凸凹コンビ感だけで腐女子一部の層にぶっ刺さりそう。ルネは軍の眠り病研究機関と過去に何やらあったらしく、物語開始時は召集令状を無視していましたが、強引なアダムに引きずり出されるような形で新型の原因究明に取り掛かります。
序盤は設定やら背景やらの説明っぽく展開が遅く感じますが、初ダイブに突入してからはテンポが良い。元々、やや女性向けというか繊細な心の機微とかが得意な漫画家だと思っていたんですが、そういう持ち味は残しつつも普通にハードでボイルドなサスペンスSFを描けてると思います。眠り病の全容はいまだ謎に包まれていますが、どうやらトラウマの記憶と関係しているらしく、そのあたりは多分得意分野と思われるので、期待したい。能天気に見えるアダムもでかい心の闇を抱えているようで、今後どう関わってくるのか。最初は反発し合っていた二人が次第に信頼関係を、みたいな鉄板もしっかり完備。
作者自身がインタビューで言っている通り、例えば最近アニメ化で話題の『BANANA FISH』のような海外を描いた往年の少女漫画やSF少女漫画の影響を受けているとのこと。『BANANA FISH』は未読なのでわかりませんが、萩尾望都竹宮恵子はすごく面白かったし、なんとなくその辺の雰囲気は分かる気がしますね。そういうのに琴線が触れる人はきっと楽しめるはず。海外ドラマや映画のエッセンスもあり、それもインタビューで述べています。精神世界に潜るという設定は例えば『インセプション』なんかを思い出しますね。お気に入りのシーンは2巻で感染地図を見つけるところなんですが、そのあたりのサスペンス感は洋画好きにもきっと響くと思うので、ぜひ読んでみてほしい。
ただ、この人今回はSFを描いているんですが前は現代スポーツモノ、昭和の伝奇モノ、と引出しが多いのでSFはそこまで、という人はそっちから読んでもいいかもしれません。短編集もおぬぬめ。舞台は違えどどれも面白いです。なんていうか特色を損なわずに色々面白く描けるのはやっぱり力のある漫画家だなと思うし、だからこそもっと売れて欲しい。『ダンジョン飯』は同作者の他作品に比べて突出して面白いというわけじゃないんですが(全部同じくらい面白い)、ヒットのキッカケになった理由は題材の新鮮さとか尖った発想とかその辺だと思うんですよね。『LIMBO THE KING』がそういうキッカケになれるかどうかはまだ微妙なとこですが、期待したいですね。